『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く

稲田豊史

『こち亀』は現代の「浮世絵」だ!

定価
1,870円(本体1,700円+税10%)
ISBN
9784781619187
JANコード
1920095017006
NDC分類
726
発売日
2020年9月12日
判型
四六判  
製本
ページ数
360ページ
カテゴリー
エンターテインメント

詳細Detail

  • 内容紹介
『こち亀』は現代の「浮世絵」だ!

庶民の金回り、地価変動と田舎ディス、テクノロジー信奉とガジェットの変遷、サブカルチャーの地位と文化系ヒエラルキー、ビジネス・アイデアとハック思考、漫画的表現とポリティカル・コレクトネス
……大衆社会を定点観測し続けた連載40年、全200巻の偉業から昭和~平成日本の歩みを追う。

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『こちら葛飾区亀有公園前派出所』とは?
◎秋本治による国民的漫画
◎「週刊少年ジャンプ」1976年42号から2016年42号まで連載
◎コミックス全200巻はギネス世界記録

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 浮世絵の特徴は大きく3つ。上から目線の芸術ではなく大衆・庶民のための娯楽であったこと、「時代の今」「大衆のニーズ」を素早く取り入れていたこと、精緻な描き込みによる史料的価値があること――だ。
 『こち亀』は、この3点を完全に満たしている。世俗を非エスタブリッシュメント、すなわち生活者の目線で描き、社会や人々の生活・気分・好奇心を、濃厚なまま、希釈することなく、過剰な装飾で見栄え良く整えることなく、できるだけその時代の空気をとじこめる形で、そのまま史料保存した漫画作品。それが『こち亀』だ。
〈略〉
 『こち亀』はバイオレンスポリスアクションであり、マニアックな男の子ホビーやサブカルの啓蒙書であり、ブームやトレンドや新製品をいち早く紹介する情報漫画であり、さまざまな職業を疑似体験させてくれる体験レポートであり、社会や経済やビジネスの仕組みを子供にもわかるよう噛み砕いて説明する解説本であり、あらゆる知識の教養書であり、雑学書であり、下町文化の広報メディアであり、下町人情物語であり、東京の都市論だ。そして、以上の要素のかなり多くが、その時代ごとの世相を完璧に──すべて大衆目線という完全定点観測という手法をもって──反映された形で作品に盛り込まれている。
〈「第0章 「浮世絵」としての『こち亀』」より〉

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 『こち亀』が何より大事にしているのは、常に、「昔」より「今」だ。描かれた時点が、『こち亀』にとっては常に最高の今。時に昔を懐かしんだり、ノスタルジーに耽ったりしても、両津は「昔と違って今は苦痛」だとは言わない。今を憂えて鬱に沈んだりもしない。
 もし、この時代に不満があるなら、両津は変えようとする。変えようとしてきた。世の中の仕組みを、古臭い慣習を。そのためにビジネスを興し、街ごと作り変え、国政に出ようとまでした。両津は時代を精いっぱい肯定する。否、肯定できる世の中に変える努力をしてきた。両津は世捨て人や孤高の隠居生活を善 しとしない。
 時代にコミットすることに苦痛を感じるどころか大きな喜びを感じる両津は、最新のものに飛びつき(初物好きであり)、今を享楽的に生きる(宵越しの銭を持たない)。それは両津が生粋の江戸っ子であると同時に、圧倒的に現在を肯定している証左でもある。
〈「第8章 『こち亀』とはなんだったのか」より〉
〈目次〉

第0章 「浮世絵」としての『こち亀』
 大衆文化の定点観測
 ノスタルジーではなく、「今」を描いている
 大衆の無意識な残酷さを代弁する
 触媒としての『こち亀』
 タモリと共通する「無反省」と「無節操」の美学
 『こち亀』の真の主役は両津ではない
 小中学生向けの「社会の仕組み」の教科書
 “受動的に”配達される新聞として
 『こち亀』を鑑賞する第四の視座

第1章 庶民目線の生活と経済
 バブルの口火/地価狂乱で9億円をせしめる両津
 「よそ者が東京を荒らす」ことに怒る両津
 「スーパーMMC」の運用を解説する大原部長
 「利殖はセコい、投資は危険」の日本人気質
 39億円のマンションはなぜ売れるのか
 「弾けたバブル茶化しモード」全開
 「失われた20年」に寄り添う『こち亀』
 ヒルズ族とセレブいじり
 リーマン・ショックとアベノミクス

コラム① 両津の給料

第2章 住宅と都市論からみる東京の昭和・平成史
 恒常的に高い、東京の土地
 「都内でマイホーム」は無理ゲー
 マイホーム主義者をコケにする両津
 千葉の五香、ローン8万8000円
 田舎者をバカにする江戸っ子
 架空の地名で東京以外の関東をコケにする
 23区同士の序列
 東京の再開発にリアルタイムで立ち会う
 「地価」の高さを「地下」で解消する

コラム② ブームに踊らされる大衆

第3章 『こち亀』が添い寝した技術立国ニッポン
 技術解説書としての『こち亀』
 携帯電話の普及を『こち亀』とともに追いかける
 技術斜陽のニッポンで自国賛美を叫ぶ両津
 「Windows 95」のパソコンブームにかぶりついた『こち亀』
 エロサイトで戯れる『こち亀』
 両津のデジタル・デバイド宣言と情弱いじめ
 「技術を使いこなせる者はかっこよく、使いこなせない者はかっこ悪い」
 2007年の特異点とテクノロジー・マッチョ教の崩壊
 規格合戦というダイナミズムの消失
 Wikipediaと『こち亀』不要論
 社会問題のソリューションを提示する
 ある一人の技術者の生涯

コラム③ テレビ、コンビニ、外国人――時代と世相の記録

第4章 逸脱者を嗤え
 社会問題としての暴走族と不良
 “人権”が与えられない暴走族
 キャラ化、ファンタジー化、そして無関心へ
 軟弱で金持ちの若者
 「ホットドッグ・プレス」的な軽薄さを憎む
 『なんとなく、クリスタル』な若者たち
 若者批評を放棄した『こち亀』
 「2:6:2」の逸脱者

コラム④ 『こち亀』が描かなかったもの

第5章 文化教養リテラシー植え付け装置
 マニアックであることはかっこいい
 「文化資本」としての『こち亀』
 「30すぎた男がオモチャに夢中になっている姿」はみっともない
 権威付けされた『攻殻機動隊』と『エヴァ』
 大学教授・絵崎コロ助が付与した「権威」
 『タモリ倶楽部』的な情報漫画
 マニア、サブカル、ポップカルチャー、そしてオタク
 オタクに対する態度変化① 嫌悪フェイズ
 オタクに対する態度変化② バディ化するオタク
 オタクに対する態度変化③ モブキャラの「オタク絵」化
 オタクに対する態度変化④ 業界の「おもしろさ」を描く
 オタクに対する態度変化⑤ アカデミズムへのにじり寄り
 オタクに対する態度変化⑥ オタク女子の同志扱い
 心根は異端にあらず

コラム⑤ 「社会の仕組み」の教科書

第6章 ビジネスの教科書
 家内制手工業と「アイデア一発」系ビジネス
 使い捨て時代、モーレツ社員、家庭崩壊問題を反映
 国鉄民営化を背景にしたアイデア列車
 ブルーオーシャンを積極的に狙う
 テクノロジードリブンで商機を見出す
 「ビジネスモデル」の発見
 「ソリューション」という概念
 良質なマーケティング実例集
 ネーミングの妙と「物は言いよう」
 「せんべいを若者に売る」リブランディング
 女性に車を売る方法
 シルバー層の積極的取り込み
 「熟年層に売れる車」のリアリティ
 “自己実現”よりも“人助け”のコンサルティング
 「衰退の五段階」を綺麗になぞる両津
 子供たちにビジネスリテラシーを植え付けた『こち亀』

コラム⑥ エコとビジネス

第7章 ポリティカル・コレクトネス考
 志村けんと『こち亀』
 ポリコレ登場による「教科書の墨塗り」
 犯罪レベルの悪ふざけと、モノ扱いされる女性
 オヤジエロスと“男の子の夢”
 きわめて幼稚な恋愛観
 ジェンダーの押し付けと旧時代的女性観
 「女ってのは……」の能力差別と根深いミソジニー
 マンスプレイニング的な態度
 情け容赦ないルッキズム
 非ブスにしかブスと言わなくなる両津
 女子にすり寄った(?)『こち亀』
 最後まで「女子」を描けなかった『こち亀』
 『こち亀』の男性同性愛者嫌悪と保毛尾田保毛男問題
 侮蔑語としての”オカマ“と”ニューハーフ“の麻里愛
 ガチムチマッチョの“ホモ”を嗤う
 最後まで変化しなかった無自覚の偏見

コラム⑦ タブーと社会的差別

第8章 『こち亀』とはなんだったのか
 「下町文化の啓蒙書」というパブリック・イメージ
 江戸・下町文化の権威化
 ノスタルジーに閉じない自画自賛
 「時代が求めるロールモデル」の変遷
 時代に不満があるなら自分が変わる、自分が変える
 現在を圧倒的に肯定する

あとがき

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